孤独と成長の旅路『ロンツーは終わらない』

ロンツーは終わらない

山田深夜の小説『ロンツーは終わらない』は、孤独を好む中年男性・岩山と、夢を追い父親から逃れる若者・斗児が、青森から東京を目指す逃走劇を描いた青春ロードノベルです。

物語の概要

物語は、ねぶた祭で賑わう青森のキャンプ場で始まります。38歳の無職で人付き合いを避ける岩山は、愛車のホンダ・ゴールドウイングGL1800で一人旅を楽しんでいました。そんな彼の前に現れたのが、歯科医の父から逃げ出し、菓子職人になる夢を追う歯科大生の斗児です。斗児は東京駅までの同行を岩山に頼み込み、二人の旅が始まります。

多様な移動手段とスリル

当初、バイクでの旅を続ける二人でしたが、斗児の父が差し向けた追手により、バイクは破壊されてしまいます。その後、二人は新幹線、トラック、バス、徒歩など、様々な手段で東京を目指します。この多様な移動手段は、物語に変化とスリルを与え、読者を飽きさせません。

リアルな風景描写

物語の中で描かれる東北から関東への風景描写は、著者自身がバイクで取材を行ったこともあり、非常にリアルで臨場感があります。震災前の東北の美しい風景が詳細に描かれており、当時の情景を思い起こさせます。

父と子の関係性

本作のテーマの一つである「父と子」の関係性は、岩山と斗児だけでなく、旅の途中で出会う人々のエピソードを通じて深く掘り下げられています。親子の葛藤や絆、成長が描かれ、読者に家族の在り方を考えさせる内容となっています。

ユーモラスなキャラクター

本作には、個性的でユーモラスなキャラクターが多数登場し、物語に彩りを添えています。追手として登場する龍野兄弟は、コミカルな存在感で物語に緊張感と笑いをもたらしました。彼らの独特な言動や行動は、シリアスな展開の中で絶妙なバランスを保ち、引き込みます。
また、主人公の岩山と斗児の掛け合いも見どころの一つです。人付き合いを避ける岩山と、夢を追いかける斗児の対照的な性格が、旅の途中で次第に打ち解けていく過程で、ユーモラスなやり取りが生まれます。

バイク旅への期待と展開

バイクでのロングツーリングを期待して読み始めると、物語の途中でバイクが破壊され、他の移動手段が中心となる展開にやや戸惑うかもしれません。しかし、この変化が物語に深みを与え、二人の関係性や成長をより際立たせています。

総評

総じて、『ロンツーは終わらない』は、スリルとユーモア、感動がバランス良く織り交ぜられた作品です。バイク旅の醍醐味や東北の美しい風景描写、そして親子の絆をテーマにした物語は、読者の心に深く響くことでしょう。旅やバイク、家族の物語が好きな方にはぜひおすすめしたい一冊です。